家計を整えようと思ったとき、多くの人が最初に手をつけるのは「削ること」です。
支出を見直し、無駄を探し、できるだけ想定外を減らそうとする。
これは自然な行動ですし、間違いでもありません。
ただ、どれだけ丁寧に家計を管理しても、想定外の出費がゼロになることはありません。
家電は壊れますし、医療費は突然発生します。
物価は静かに上がり、「今月だけ少し高い」が積み重なっていきます。
問題は、想定外が起きることではなく、それをどう扱うかが決まっていないことです。
そこで必要になるのが「予備費」という考え方です。
予備費とは「失敗の穴埋め」ではない
予備費という言葉を聞くと、「余ったお金」「なんとなくのバッファ」という印象を持つ人も多いかもしれません。
でも、ここで扱う予備費は、そうした曖昧なお金ではありません。
予備費とは、あらかじめ発生を認めた例外を、計画の中に組み込むための枠です。
- 家電の急な故障
- 病院代や薬代
- 食費や日用品の予算オーバー
- 予測しきれない細かな出費
これらを「計画外」「失敗」「反省材料」として扱わないための仕組み。
予備費がない家計では、これらが起きるたびに「やりくりが甘かったのではないか」という自己評価が入り込みます。
それが続くと、家計は数字以上に疲れていきます。
予備費がない家計で起きていること
予備費が決まっていない家計では、次のような状態が起きがちです。
- 支出のたびに「これは許されるのか」を考える
- 月末になると帳尻合わせに走る
- 予定外=即ストレスになる
これは節約が足りないからではありません。
判断回数が多すぎるだけです。
人は、1日に何十回も「正しいかどうか」を考え続けると、確実に疲れます。
整えるとは、支出を完璧に管理することではなく、考えなくていい判断を増やすこと。
予備費は、そのための装置です。
ここで扱う「予備費」の範囲
混乱を避けるために整理しておきます。
この記事で扱う予備費は、車検や旅行、帰省といった数年スパンの大きな出費(特別費)ではありません。
毎月の生活の中で起きる
- 数千円〜数万円程度のブレ
- 予測しきれない小さな変動
これを吸収するための枠です。
役割を限定することで、予備費はきちんと機能します。
予備費の金額に「正解」はない
まずはっきりさせておきたいことがあります。
予備費に、万人共通の正解金額はありません。
世帯構成、住んでいる地域、車の有無、子どもの年齢。
条件が違えば、必要な金額も違います。
ただし、決めるときの考え方には共通点があります。
ここでよくある誤解が一つあります。
それは、「予備費を決めたら、もう予算管理はいらないのでは?」
という考え方です。
予備費は、管理をやめるための仕組みではありません。
管理の負担を下げるための仕組みです。
すべての支出を厳密に管理し続けるのは、長期的にはかなりの負荷になります。
予備費を設けることで、
「細かいブレはここで吸収する」
「本当に見るべき支出だけを見る」
という整理ができるようになります。
基準①:年ではなく「月」で考える
予備費は、年間いくらではなく月いくらまで許容するかで考えます。
理由はシンプルで、
- 家計判断は月単位で行われる
- 月ごとの収支と一緒に扱える
からです。
「年12万円の予備費」より「月1万円の予備費」のほうが、使った・使っていないが分かりやすい。
基準②:まずは月1〜3万円の範囲で決める
多くの家庭で、現実的に機能しやすいのがこの範囲です。
- 月1万円:単身世帯、固定費が低い
- 月2万円:夫婦世帯
- 月3万円:子どもあり、車あり
ここで大事なのは、「平均的かどうか」ではありません。
その金額までなら、迷わず処理できるか。
使ってはいけないお金ではなく、使っても「計画通り」と言える金額であること。
基準③:生活費1か月分を上限にする
予備費を増やしすぎると、役割が曖昧になります。
予備費は、日常のブレを処理するための枠。
それ以上の金額は、
- 使わない前提のお金
- 将来に備えるお金
として、役割を分けたほうが家計は整理されます。
目安としては、生活費1か月分を超えない範囲。
これを超えると、予備費ではなく「なんでも入れ」になります。
予備費は「甘さ」ではなく「規律」
ここは誤解されやすいポイントです。
予備費は、自分に甘くするための逃げ道ではありません。
むしろ逆で、判断の境界線を明確にするための規律です。
- ここまでは想定内
- ここを超えたら立て直す
この線が引けているかどうかで、家計の安定度は大きく変わります。
予備費がない家計では、すべての支出がグレーになります。
予備費がある家計では、
- 枠内:考えない
- 枠外:考える
判断が単純になります。
予備費を機能させるうえで、もう一つ重要なのが「置き場所」です。
これは金額と同じくらい大事ですが、金額が決まったあとに考える話です。
予備費を生活費と同じ口座、同じ財布に入れていると、それはただの「余っているお金」になりやすくなります。
すると、「枠内で使っている」という意識が薄れ、いつの間にか予備費そのものが曖昧になっていきます。
おすすめなのは、銀行の目的別口座やサブ口座などを使って、物理的・視覚的に分けておくことです。
キャッシュレス派であれば、家計管理アプリ上で「予備費分」として数字を分けて管理するだけでも構いません。
大切なのは、「これは生活費」「これは予備費」と意識を切り替えられる境界を作ることです。
予備費を使ったあとの扱い方
予備費は、使ったら終わりではありません。
基本ルールはシンプルです。
- 使った月はそのまま
- 翌月以降で、少しずつ戻す
一度に戻そうとすると、それ自体がストレスになります。
予備費は、常に機能している状態を保つことが大切です。
「翌月以降で、少しずつ戻す」と言われても、具体的にどう動けばいいか迷う人もいると思います。
考え方はシンプルです。予備費を一気に回復させようとしないこと。
たとえば、3万円の予備費を使った場合。
翌月から
- 月5,000円ずつ、6か月かけて戻す
- あるいは、余裕のある月だけ1万円戻す
この程度で十分です。
また、ボーナスや臨時収入があった場合は、最初に予備費を「満タン」に戻す、というルールを決めておくのも有効です。
こうしておくと、予備費は「使ったら終わり」ではなく、自然に回復する仕組みとして機能します。
余った予備費はどうするか
逆に、予備費を使わなかった月もあります。
この場合は、そのまま翌月に繰り越します。
ただし、一定額を超えた場合は注意が必要です。
- 役割が曖昧になる
- 何でも使えるお金に見えてくる
そう感じたら、別の役割を持つお金として分けます。
これで、予備費の意味が保たれます。
物価が変わった今、予備費は必須になった
ここ数年で多くの家庭が感じているのは、
- 前は合っていた予算が合わない
- 以前の感覚が通用しない
というズレです。
これは、管理が甘くなったからではありません。
前提となる価格が変わっただけです。
だから今は、想定外をゼロにしようとするより、想定外を処理できる設計が必要です。
予備費は、その中心にあります。
まとめ|予備費が決まると、家計は静かになる
予備費を決めると、
- 支出のたびに迷わなくなる
- 自己否定が減る
- 家計判断が軽くなる
整った家計とは、数字が完璧な家計ではありません。
迷わず判断できる家計です。
まずは、「毎月いくらまでなら想定外として処理するか」この1点だけ決めてみてください。
それだけで、家計は一段、整います。
【POD】予備費 財政法叢書40巻 [ 日本財政法学会 ]



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